空飛ぶ映画レビュー

主に新作映画の感想を綴ります。

映画『チィファの手紙』の感想 『ラストレター』との相違点から感じたこと

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映画『チィファの手紙』の感想 『ラストレター』との相違点から感じたこと

同監督岩井俊二監督の映画『ラストレター』の公開から約半年、同じ原作を元とする2018年に先行で中国で公開された『チィファの手紙』が公開となりました。中学生の頃に岩井監督作品に出会い「映画」に興味を持った僕にとって、岩井監督作品への思い入れは強く、それゆえ『リップヴァンウィンクルの花嫁』『ラストレター』がイマイチ肌に合わずショックでした。今回のチィファの手紙も『ラストレター』と原作は同じ。果たしてどうかしら・・・と期待と怖さ半々で劇場に足を運びましたが、勇気を持って観てよかった!!はっきり言って、『チィファの手紙』の方が何倍も良い映画です

 

監督:岩井俊二

公開日:2020年9月11日(日本公開日)

鑑賞日:2020年9月11日

おすすめ度:★★★★★★★★★(9/10)

<あらすじ>

姉、チィナンが死んだ。彼女宛に届いた同窓会に出かけ、そのことを伝えようとした妹、チィファだったが、姉に間違えられた上、スピーチまでするはめに。
同窓会には、チィファが憧れていたイン・チャンも来ていた。途中で帰ったチィファをチャンが追いかけ、呼びとめる。

チャンがチィナンに恋していたことを知っていたチィファは姉のふりを続けた。連絡先を交換するが、チャンが送ったメッセージのスマホ通知を、チィファの夫ウェンタオが目撃。
激昂し、チィファのスマホは破壊されてしまう。仕方なくチィファは、チャンに住所を明かさないまま、一方通行の手紙を送ることに。かくして始まった「文通」は、思いもかけない出来事を巻き起こす……。

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岩井俊二監督作品『チィファの手紙』予告【2020年9月11日公開】

<感想>

自分の正体と住所を伏せて昔憧れていた男性に一方的に送った手紙が、出会うはずのなかった出会いを産む物語です。『ラストレター』と大筋は同じですが、やはり異なる点はいくつかありました

一番大きな相違点が「弟」の設定です。公式WEBページにも書かれていますが、中国で以前敷かれていた一人っ子政策の影響から、チィファ(日本版で松たか子の役どころ)にふたり子供がいるというのは違和感があるということで、「弟」はチィナン(日本版で広瀬すずの役どころ)の次男の設定になっています。日本版ではただただソファーに寝転がって3DSやっている少年でしたが、チィナンの息子に置かれていることで、母を亡くした息子の設定に変わり、彼の苦悩が物語に大きく深みを作っていたように感じます。

本作は「弟」の立ち位置が変わったことで、母の死にただただ幼く悲しみを抱える少年の苦悩が描かれていて、人ひとりの死の重みを改めて感じさせられましたし、息子に愛されていたチィナンの母親の側面が見えたように感じました。

実は僕が『ラストレター』に感じていた一番の違和感がこの部分です。人ひとり死んでるのに、わかりやすく単純に悲しんでいる人とか、寂しいと思っている登場人物が出てこないんですよね。亡くなってもう随分と時間が経っているような扱いで、違和感を感じていました。(もう彼らの中ではとうに死んでしまっていたのか?)


また、中国版(本作)は役者の演技はもちろん素晴らしいのですが、そこにクローズアップしすぎないところも良かったです。

日本版は、松たか子、広瀬すず、森七菜、この三人の演技が凄すぎて、三人を見せるために一つ一つのシーンがくどかった印象です。広瀬すず、森七菜のシーンはとても良いのですが、そちらに気を取られて「あれ?誰が主人公だっけ?」と注意散漫に。松たか子の影は物語中盤から消え失せ、福山雅治に至っては「ただの気持ちの悪いおじさん」に観えてしまいました。いろんなキャラクターをまんべんなく見せながら最終的にはすごく閉じた物語になってしまっていたように感じます。

一方中国版は、ムームーを演じたダン・アンシーちゃんなんて、超絶美少女で、絶対もっと撮りたかったはずなのに、それを抑えて物語を見せることを中心に構成されていたので、本筋からぶれずに最後まで見通すことができました。チィファと、チャンにフォーカスしながら、それでいて最終的には、子供達や物語に出てくる全てのキャラクターたちの未来の可能性を信じたくなるような開けた物語になっていたように思うのです。の本番でトヨエツ演じるただただ凄みのあるおじさんだった、チャンの敵役も人間味のある人になっていたので、「この人にも幸せになってもらいたい」とすら思えました。チィファの旦那の描き方も断然こちらの方が良かったですね。(庵野監督に紙コップのシーンは無理だったんだろうな・・・。)

  

日本版では急に森七菜が「学校に好きな子がいるから学校行きたくない!」って言い出した時はどうしようかと思いましたが、本作を見ると違和感なかったですね。無限の可能性がこういう形で芽吹いているのだなと暖かい気持ちになれました。

「そんなチャチい小説で、人ひとりの人生をかいたと思うなよ」チャンと物語全体に影を落とすそのセリフは監督自身が抱えている葛藤なのかなとも思います。その言葉はその通りで、小説や映画1本で人間を描き切ることなんてできない。でも一つの言葉や1冊の本、1本の映画が、誰かの支えになったり誰かの背中を押すこともあると、監督はそう信じているいるのだなと思います。チィナン(とチャン)の残した言葉も子供達とチィファの背中を押すのです。こんな形で監督自身のメッセージをここまではっきりと物語の中でわかりやすく語ることって珍しいのではないでしょうか。まるで映画自体が監督からのラストレターのようですが、まだまだ新作楽しみにしています。

 

最後に東日本大震災復興支援ソングとして岩井監督が作詞した『花は咲く』の歌詞で締めくくりたく思います。

花は 花は 花は咲く いつか生まれる君に
花は 花は 花は咲く わたしは何を残しただろう

花は 花は 花は咲く いつか生まれる君に
花は 花は 花は咲く いつか恋する君のために

引用:「花は咲く」岩井俊二作詞

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