こんにちは。空飛ぶ人です。
僕は非正規雇用で平日と土日と働いており、自分の中で自分の身分は「フリーター」ってことにしています。
あまり共感してもらえないんですが、アラサーの独身男しかも別に仕事にバリバリ打ち込んでいるわけでもない人間への風当たりって、案外きついものがあります。まあ客観的に見ても「なんで生きているの?」って感じですが・・・。
今回鑑賞したのは、母にも、バリバリのキャリアウーマンにもならなかった五十路近い女性の日常を描いた『甘いお酒でうがい』。
僕自身の境遇・状態からすると、解りみが深く、そこはかとない不安感にかられる描写もあったのですが、何故か見終わったときに肩の荷が下りるような不思議な魅力のある作品でした。
作品情報・あらすじ
監督 大九明子
脚本 じろう(シソンヌ)
公開日:2020年9月25日
ベテラン派遣社員として働く40代独身OLの川嶋佳子は、毎日日記をつけていた。
撤去された自転車との再会を喜んだり、変化を追い求めて逆方向の電車に乗ったり、踏切の向こう側に思いを馳せたり、亡き母の面影を追い求めたり···。
そんな佳子の一番の幸せは会社の同僚である若林ちゃんと過ごす時間。
そんな佳子に、ある変化が訪れる。それは、ふた回り年下の岡本くんとの恋の始まりだった···
映画『甘いお酒でうがい』 予告編90秒 かなでさん Ver.
感想
40代(後半)独身の主人公川嶋佳子。物語は日記に書かれた彼女の何気ない日常の様子の切り貼りでつづられていきます。そのため1つ1つのエピソードが短く、どうでもいいような話が淡々と続くので、観る人によっては苦痛かもしれません。
自転車が撤去されただとか、雨の日に新しい靴をおろしただとか、20代の男性が観たらただひたすら美人だけどヤバめのおばさんの、ヤバいひとり語りを聞かされて、面くらってしまうと思います。
正直僕も最初は「おお・・・このペースで続いていくのか・・・」と不安になりましたが、後輩若林ちゃんを演じる黒木華の登場、さらに年下イケメンの登場あたりから話は面白くなります。
僕には序盤の川嶋佳子は残りの春を数えて生きているように見えました。日々の些細な幸せを大事にしているようですが、達観して、自分自身の人生に今後大きな事件は何も起こりはしないと、諦めきっているようにも見えます。
そのため、生きた日々が無意味なものではなかったという証が欲しくて、日々の何気ないことに幸せを見つけて印(日記)をつけていたのではないでしょうか。
年下イケメン岡本くんと出会ってお付き合いを始めても、幸せなはずなのに彼女の中でのモヤモヤは晴れません。この関係性も終わりが訪れることを知っているので、また残りを数えて落ち込んでいく。がっかりしないように過度な期待はしない、致命傷にならないようにあらかじめ最悪のケースを想定する。(非常に共感する・・・。)
誰かの母になることをあきらめて、自分の母も亡くしてしまった(はっきりと明言されてないがおそらく亡くなっている)。根無し草のようにふわふわと日常の世界から抜け出せずに彷徨う姿は『千と千尋の神隠し』のカオナシのようにも見えました。
そんな、過去と来ない未来の間をふわふわと紐の切れた風船のように漂う川嶋佳子の手をぎゅと握ってしっかしりと立たせたのが、後輩の若林ちゃんです。
川嶋佳子の「幸せ」が仕事での成功でも、恋愛の成就でもなく、ただそこにいる自分が笑っていることだと結んだラストは、とても優しくて観ていた僕も何か救われたような気がしました。
映画としては退屈な時間も多くて、松雪さんのボソボソとしたひとり語りもずーと聞いてるとちょっとしんどいなあと思ったので、「名作!」と手放しでは叫べませんが、母でもキャリアウーマンでも無い女性の、地味ながらも新しい幸せを描いた作品として見る価値はあったなと思いました。
このご時世、普通にTVや携帯見てるだけで、何でそんなに金あるの?っていう同世代の他人の裕福な生活や、汗かいて何かに心血注いでる姿が目に入ってきます。プロスポーツプレーヤーでも、1000万円プレーヤーでなくても、「生きてるだけで結構ハードモードなんだけどな、」と思っている人って結構多いのでは無いでしょうか。
イチローになれなくても、あなたの人生がイチローより劣っているわけじゃない。
鑑賞日:2020年10月9日
おすすめの度:★★★★★(5/10)