こんにちは。空飛ぶ人です。
前情報なしで観たので、ポスターのビジュアルと映画タイトルから、なんだかホンワカスローライフムービーかしらくらいに思っていたら、みぞおちぶん殴られる映画でしたよ・・・。知らずに女性専用車両に乗り込んだみたいな。
映画館は女性のすすり泣きの嵐。男性としては非常に居心地の悪い映画には間違いないですが、観て良かったなと思います。以下男性の僕から見た素直な感想です。
作品情報・あらすじ
監督:キム・ドヨン(やっぱり女性なんですね)
公開日:2020年10月9日
結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン。常に誰かの母であり妻である彼女は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。
そんな彼女を夫のデヒョンは心配するが、本人は「ちょっと疲れているだけ」と深刻には受け止めない。しかしデヒョンの悩みは深刻だった。
妻は、最近まるで他人が乗り移ったような言動をとるのだ。ある日は夫の実家で自身の母親になり文句を言う。「正月くらいジヨンを私の元に帰してくださいよ」。
ある日はすでに亡くなっている夫と共通の友人になり、夫にアドバイスをする。「体が楽になっても気持ちが焦る時期よ。お疲れ様って言ってあげて」。
ある日は祖母になり母親に語りかける。「ジヨンは大丈夫。お前が強い娘に育てただろう」――その時の記憶はすっぽりと抜け落ちている妻に、デヒョンは傷つけるのが怖くて真実を告げられず、ひとり精神科医に相談に行くが・・・。
『82年生まれ、キム・ジヨン』予告 10月9日(金)より 新宿ピカデリー他 全国ロードショー
感想
「様々な女性が憑依する」というジヨンの”トンデモ症状”。それはすべての女性たちの苦しみの代弁でした。
結婚、出産、育児を機に次第に精神を病んでいくジヨン。彼女を追い詰めたのは何か一つの出来事ではなく、”女性”を取り巻く社会の空気そのものでした。
少女時代に痴漢をされれば「男を誘うような恰好をしているお前も悪い」と言われ、父は男の弟しか見ていない。結婚をして子供が出来れば当たり前のように女性である自分がキャリアをあきらめる。
多くの女性たちが”個”をもぎ取られ、こうして「女性の役割を全うするだけの奴隷」にさせられているのかと、観ていて息苦しさを感じました。(自分も間違いなく、その一旦を担っている)
一番ハッとしたのは、ジヨンの周りでキャリアウーマンとして仕事を選んだ女性たちです。女性だけが、自分のキャリアを選ぶのであれば、世間一般の幸せな家庭はあきらめなければならないという事実。
日本テレビ『家売るオンナ』で、仕事と育児を両立しようとする登場人物に主人公が投げかけた言葉「『女性が輝ける社会』と言うが、どうして社会進出しようとすると、女性だけが”輝かなければならない”のか」というセリフを思い出しました。
観ていられなかったのが、ジヨンの一番そばで彼女を見守る夫。
「真綿で首を絞める」ってこういうことかと思いましたね・・・。ジヨンを心配しながらも、ジヨンに対して「働いて”も”いいよ」「僕も育児を”手伝う”」「僕が育児休暇をとるよ。ちょうど勉強の時間も欲しかったし」的な無神経なことをやさしい顔して言っちゃう。
自分の手がハサミだと気が付いていないシザーハンズですわ。
でもこういうことってやっちゃうし、たぶん男の人はこの映画を客観的に観ても気が付かない人は多いんだろうな。
映画・物語なので最終的にジヨンに対して希望が差す終わり方をしますが、すべての女性は地獄のような世界で生きているのだな。
以下の方の感想がとても印象に残ったので紹介させていただきます。
映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が日本公開で話題になっていると聞いて。韓国で公開初日に、娘の保育園で双子を育てているママ友と号泣しちゃうかもねーなんて期待をして行った。終了後あったものは、無感動の沈黙と「劇中のジヨンくらい恵まれてたら、もう1人子供産んでたよね」というお互いの感想 pic.twitter.com/Nc2uDIAoMD
— Yoko/陽子 (@redrain_seoul) 2020年10月12日
男として、「マジでごめんなさい」と思いながらも、本当に正直な気持ちとしては、長い歴史の中で作られてきた価値観だから、もう少し時間くれませんか。ジヨンの夫だって、寄り添おうとしているんだから責めないであげてね・・・。と思ってしまいますが、当事者=女性たちからビンタされそうですね。
物語としてはとにかく不幸に転んでいく展開なんですが、映画として見入ってしまう作りでした。単に説教臭くなく見られたのはよかったですね。
今年に入って韓国映画は『パラサイト』以降2本目ですが、日本からもこういう社会性とエンターテインメントを両立した頭抜けた作品が出てくるといいな・・・。
鑑賞日:2020年10月11日
おすすめ度:★★★★★★★(7/10)