空飛ぶ映画レビュー

主に新作映画の感想を綴ります。

映画『窮鼠はチーズの夢を見る』のネタバレあり感想 「わー!キャー!で楽しんでOK」ラストの考察も

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(c) 映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

映画『窮鼠はチーズの夢を見る』のネタバレあり感想

こんにちは。空飛ぶ人です。

先日観た『劇場』が大傑作だったので!という大義名分を掲げて、観てきました。『窮鼠はチーズの夢を見る』!そこそこでかいシアターがほぼ満員。大倉くんがジャニーズだってことをすっかり忘れていたのですが、客層はほぼ女性。客電が消えるまでの居心地の悪さったらなかったです。「私は行定作品を観にきたんですよ〜」って顔して耐え忍びました。

感想としては恋愛映画の傑作であり、全てのBL(ボーイズラブ)の集大成だなと思いました。LGBT映画のその先は案外BLが切り開いてくれるのかもしれません。

 

監督:行定勲

公開日:2020年9月11日

鑑賞日:2020年9月13日

おすすめ度:★★★★★★★★★(9/10)

<あらすじ>

学生時代から「自分を好きになってくれる女性」と受け身の恋愛ばかりを繰り返してきた、大伴恭一。 ある日、大学の後輩・今ヶ瀬渉と7年ぶりに再会。「昔からずっと好きだった」と突然想いを告げられる。戸惑いを隠せない恭一だったが、今ヶ瀬のペースに乗せられ、ふたりは一緒に暮らすことに。 ただひたすらにまっすぐな今ヶ瀬に、恭一も少しずつ心を開いていき・・・。しかし、恭一の昔の恋人・夏生が現れ、ふたりの関係が変わり始めていく。

https://www.phantom-film.com/kyuso/

 映画公式サイトより引用


9月11日(金)公開/映画『窮鼠はチーズの夢を見る』90秒予告

 <感想>

まず、体も内面もさらけ出した主演二人に大拍手を送りたいです。

定評の演技力に引っ張りだこの成田凌くんはもちろんですが、正直大倉くんがここまで演技ができる方だとは知りませんでした。

序盤の笑っているけど人に興味のない目の演技に衝撃を受けました。どこまでも空虚な目をしていて、この人って自分の人生にも興味がないんだろうなと思わせる説得力がありましたね。

大倉くん演じる恭一は人にも自分にも興味がなく、人との衝突も避けて生きているのですが、それが恭一に大学時代から思いを寄せる(成田凌演じる)今ヶ瀬との出会いで変わっていきます。恭一自身の変化、今ヶ瀬に対する感情の変化がすごく丁寧に描かれていて、BL(ボーイズラブ)王道のストーリーなのですが、BLに不慣れな人間も納得のできるものになっていたと思います。

一緒にいて楽な関係から、自分でも気がつかないうちにそばにいなくては困る存在に変わっていく過程が見ていて微笑ましく、二人で過ごした楽しい時間がちゃんと描かれている点が良かったなと思います。それがあったから二人が別れた後の喪失感が刺さりました。

ゲイ当事者としては、今ヶ瀬の独占欲からくる嫌な部分もちゃんと描かれているのは良かったなと思いました。恋人として選ばれないことをわかっていながら、ズルくも好きな人の側に居続けて、他の女は排除しようとする部分は、非常に共感できましたし、恭一の元カノ夏生とのキャットファイトシーンでそこを突かれる時は胸が痛かったです。

(あのシーンは凄まじかった。)

 

ラストの展開については、賛否があるようです。

付いて離れてを繰り返すうちに、最終的に恭一は今ヶ瀬が自分には必要だと感じて、会社の後輩(女)との結婚を取りやめて、今ヶ瀬を選ぶのですが、今ヶ瀬は恭一の前から姿を消します。恭一側の心情は言葉で説明されますが、今ヶ瀬がどうしてそういった行動に出たのかは観客の想像に委ねられます。

僕は、今ヶ瀬は恭一を追いかけながらも、彼が全てを捨てて自分を選ぶとは思っていなかったのだと思います。中盤で「お前を選ぶわけにはいかない」と決定的なことを言われた後も、だから恭一の部屋に帰ることができたんではないでしょうか。その言葉が予測もしないものだったら、その時点で姿を消すはずです。自分を選ばない恭一だからこそ、永遠に好きでいられる。終着点がないから永遠と信じられる。恭一が自分を選んだら、その先はどこに向かうのか。結婚も子供もない未来、恭一が冷めてしまったら、その時は自分は本当に全てを失ってしまうんじゃないかと、尻込みしたと解釈しました。こういってしまうと陳腐ですが、本当の意味で失ってしまうのが怖かったのではないでしょうか。

いわゆるノンケ男性が、ゲイに振り向くことなんてほぼ無いんですよね。そういう意味ではLGBT映画としてはリアリティは無く、あくまでボーイズラブ映画なのですが、すごく共感できる部分は多く、考えさせられる部分もありました。それはこれがゲイを描いた映画だったからではなく、恋愛映画としての完成度がすごく高かったからだと思います。異性愛者が観ても共感できる部分はあるのでは無いでしょうか。

ボーイズラブと言うと眉をひそめる人も少なく無いでしょうし、ゲイからも「ゲイは女の嗜好品じゃ無い」と嫌われがちですが、実は結婚や子供というゴールがないゆえに、純粋に「恋愛」を描くのに向いている設定なのだと思います。ベタで王道展開の本作を原作に選んだのも正解だと思います。

この映画、いろんな方面から批判もあるかもしれませんが、問題定義ばかりだったり、腫れ物に触るようなLGBT映画より、パーソナルを描いたボーイズラブの方が、時代の先を走っている気もします。「普遍的な恋愛を描いた」なんて言わずに、堂々と「ボーイズラブの傑作です!!」と謳ってほしいな。別に特別BL好きってわけではないけど、BLに対する風向きが変わるといいですね。同性愛を描くからといって、作る方も観る方も身構えなくていい。「わー!キャー!」と楽しんでいいと思います!!

ファーストカットのスーツのお尻や、登場する女性が皆同じような顔していたり、各所に「BL」へのオマージュもあって面白かったです。

 

映画を観終わって映画館を出た時、おそらく20歳くらいと思われるゲイのカップルが、本作のポスターの前で写真を撮りながらあーだこーだと映画の感想を語り合っていました。「単純に惚れた腫れたをゲイが楽しんでもいいよね。よかったね。」と微笑ましい気持ちになり、未来は明るいなとそう感じて清々しい映画体験になりました。

 

www.phantom-film.com

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