映画『ミッドナイトスワン』の感想
公開日:2020年9月25日
鑑賞日:2020年9月25日
監督:内田英治
おすすめ度:★★★★★★★★(8/10)
<あらすじ>
故郷を離れ、新宿のショーパブのステージに立ち、ひたむきに生きるトランスジェンダー凪沙。
ある日、養育費を目当てに、育児放棄にあっていた少女・一果を預かることに。
常に片隅に追いやられてきた凪沙と、孤独の中で生きてきた一果。
理解しあえるはずもない二人が出会った時、かつてなかった感情が芽生え始める。
<感想>
『白鳥の湖』のあらすじを知ってますか?大雑把なお話は下記の通りです。(本当にざっくりです)
成人をむかえたある国の王子様はいい加減に妃を迎えるよう母から迫られ、嫌気がさしてなんの気無しに夜の散歩で湖に出かけます。
そこで見たのは、一羽の白鳥が美しい娘に姿を変える瞬間でした。実はこの娘、悪い魔女に白鳥の姿に変えられてしまったのですが、夜の間だけ人間の姿に戻ることができるのです。この呪いを解くことができるのは、まだ誰も愛したことのない男からの永遠の愛の誓いだけで・・・。
といった話です。
映画を見る前、ミッドナイトスワンとはつまり夜ショーパブで働く間だけ本当の姿に戻ることができる凪沙のことなのかなと思っていましたが、見終わった今、ミッドナイトスワンとは凪沙の真実の愛で本当の姿に戻ることができた一果のこととも捉えられるなと感じています。
正直この映画、「母(になりたいトランスジェンダーの女性)と子の感動映画」くらいに思って見にいったら、みぞおちにパンチくらうので要注意です。
特に後半、母性が目覚めた凪沙の一果への愛情の傾け方は「執着」「執念」と見間違うほどに凄まじく、生々しい表現に言ってゾッとしてしまいました。
一果のために、全てを犠牲にしてついには悩んでいた体の手術にも踏み切ります。手術後、水川あさみから浴びせられる「バケモノ!」の怒号。(今年度一のキャットファイト!)
正直僕の目にもバケモノの様に写っていました。明らかにそう狙った見せ方で、どうしてこんな見せ方をするんだろと思ったのですが、劇中他の場面で誰かが言った「お前らには絶対分からない」というセリフがずっと頭をリフレインしていました。
凪沙にとって一果は人生に唯一現れた希望だったのだと思います。「どうして自分だけ」と思ってきた人生に現れた自分が親になれるかもしれないという可能性。それを掴むために、身内に「バケモノ」と罵倒されても、母親に泣かれても、なりふり構わずに一果に向けて愛情を向ける姿がすごく観ていて苦しいのと同時に、羨ましくも感じました。
「お前は生きてるのか!?」と草なぎ剛に胸ぐらつかまれた気分です。愛の映画というよりは、戦え!というメッセージの映画に思えましたね。幸運の女神には前髪しかないという話を思い出しました。それを掴むためになりふり構うなと。
ドリカムの吉田美和の歌って上手すぎてもはや暴力と感じることがあるのですが、この愛もまた暴力の様に痛かった。
水川あさみの心情の変化が雑だったり、最後方のCGで萎えたり、残念な部分もありましたが、非常に濃厚な映画体験だったと思います。
以下 トランスジェンダーの描かれ方に関してです。
一果という救いは残るのですが、凪沙の境遇、結末が悲しすぎてトランスジェンダー当事者はどう観るのだろうかと思いました。多分「自分はそうかも」と思う様な中高生もこの映画を観ると思うんですよね。その時、この映画に希望を見いだせるのかと。
ただ彼女たちが実際に抱えている問題はシビアで、女性ホルモンを打ち続けるリスクや、体の手術後の維持の大変さ等はTVでは語られませんし、トランスジェンダーの方達たちの選択肢の少なさや、生きずらさ、周囲からの「悪意のない差別」がここまで無修正に表現されていたのには問題定義の面では意味があったのかなと思います。いまだに「心が女性(男性)」みたいな表現しちゃう人もいますしね。
最後に、一果を演じた新人の服部樹咲ちゃんの初々しくもこちらの感情を揺さぶらせる様な演技も必見なんですけど、僕的には友人役を演じた上野鈴華ちゃんが仲里依紗が出てきた頃を彷彿とさせました。そんなにキャリアがある人じゃないっぽいですけど、ちゃんと技術を持っていて、終始シリアスな映画の中でくすりと笑わせてくれるし、一果と出会うことで複雑に動いていく心情をすごく上手に見せてくれていたと思います。次はコメディとかで見たい注目の女優さんですね。
今日観たばかりで興奮のまま筆をとったのでまた加筆するかもしれません