空飛ぶ映画レビュー

主に新作映画の感想を綴ります。

『青くて痛くて脆い』の感想 できれば共感なんてしたくなかった

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引用https://www.toho.co.jp/movie/lineup/aokuteitakutemoroi-movie.html ©2020「青くて痛くて脆い」製作委員会

『青くて痛くて脆い』の感想 ネタバレあり 
できれば共感なんてしたくなかった
キモくて、イタくて、めんどくさい、嫌われ主人公の爆誕!

どうも。空飛ぶ人です。

おそらく、「またそれ系の邦画ね・・・」とスルーしてしまっている人が多いであろう、『青くて痛くて脆い』を鑑賞してきました。
コメディと思えばそうも観えてしまうこの映画、たぶん”青春”をどう過ごしたかで、見え方が大きく変わる映画だと思います。できれば主人公には共感したくなかった・・・。同属嫌悪と言うのか身に覚えのある青さに終始チクチクと苦しかったです。

 

監督:狩山俊輔

公開日:2020年8月28日

鑑賞日:2020年9月1日

おすすめ度:★★★★★★★(7/10)

<あらすじ>

人付き合いが苦手で、常に人と距離をとろうとする大学生・田端楓と空気の読めない発言ばかりで周囲から浮きまくっている秋好寿乃。

ひとりぼっち同士の2人は磁石のように惹かれ合い秘密結社サークル【モアイ】を作る。

モアイは「世界を変える」という大それた目標を掲げボランティアやフリースクールなどの慈善活動をしていた。
周りからは理想論と馬鹿にされながらも、モアイは楓と秋好にとっての“大切な居場所”となっていた。

しかし秋好は“この世界”から、いなくなってしまった…。

秋好の存在亡き後モアイは社会人とのコネ作りや企業への媚売りを目的とした意識高い系の就活サークルに成り下がってしまう。

変わり果てた世界。
取り残されてしまった楓の怒り、憎しみ、すべての歪んだ感情が暴走していく……。
アイツらをぶっ潰す。秋好を奪ったモアイをぶっ壊す。どんな手を使ってでも……。

楓は、秋好が叶えたかった夢を取り戻すために親友や後輩と手を組み【モアイ奪還計画】を企む。
青春最後の革命が、いま始まる−− 。

 https://aokuteitakutemoroi-movie.jp/

 


『青くて痛くて脆い』予告【8月28日(金)公開】

<感想>

*原作ものなのでネタバレを含む感想にしてます

僕はここまで人の本当は見られたくない部分をちゃんと描いてエンターテイメントにした映画をほとんど知りません。
モンスターペアレントや、ネットに誹謗中傷を書く人に対して、「なんであんなことしちゃうんだろ」と誰もが思いながらも、そういう人が絶えないのは、自分でも気づかないうちにそうなってしまう脆さが人間にはあるからで、この映画はその過程が描かれています。

 

主人公 楓に共感できるタイプの人と、一切入り込めないタイプの人がいると思いますが、僕はがっつり楓側の人間なので、観ていてしんどい部分が多かったです。学生時代、斜に構えて生きてきた人は、この映画、結構堪えると思いますよ。

観客側は順を追って、「あんな糞サークルぶっ潰せ!!」→「ん?糞サークルなのか?」→「これは”復讐”なのか・・・?」→「なんだ!ただの主人公の逆恨みじゃん!!」と次第に主人公が巨悪に立ち向かうヒーローではなく、身勝手な思い込みで暴走するダークヒーローであると気が付くのですが、この楓の転落ぶりをミステリー映画みたいな見せ方で見せていくところが面白かったです。
純愛映画の主人公の面で登場し、最終的にはクソ野郎まで落ちぶれるのですが、楓自身は、自分が「クソ野郎」であることにクライマックスの場面まで気が付かないですよね。あくまで自分の理想を取り戻そうとしているだけだと。
僕は「馬鹿なやつだな」と思いながらも、自分も少なからず主人公の楓と同じように他人に期待を寄せて、裏切られたと勝手に傷ついた経験があるので、あのような行動に出るのもわかるような気が気がします。


付き合っていた彼氏と別れた後、友達に元カレの悪口を言って回ったり、好きだったインディーズのバンドがメジャーになって方向性が変わったらネットに「昔はよかったのに、今はクソ」とアンチコメントをしてみたり。そんな経験は誰にでもあると思います。自分は正義は自分にあるつもりで戦っているのに、はたから見るとただの駄々っ子と同じでイタい人なんですよね。
(自分が勝手に描いた)理想と、実際の相手とのギャップが生じた時に、それまで好意に向いていた分のエネルギーが憎悪に向く。後になって振り返ると、自分が一番その人のことを知っていると思っていたけど、多面的に見れていなかったのは自分の方で、身勝手だったなと反省をしていく。

楓はクライマックスで初めて言葉にして秋吉と向き合うことでそれに気が付くのですが、このシーンがもう観ていて苦しいやら、笑えるやらで、今までに感じたことの無い感情でした。自分が写っているホームビデオを見た時のようなむず痒さ。
「気持ち悪っ」の一言で急所をとらえられ言葉が詰まる楓を観る自分はおそらく、苦笑いしていたと思います。こんなにクソ野郎なのに、僕にも身に覚えがあり過ぎる・・・。本当は共感なんかしたくなかったと思いながら、主人公が心の中から望んだ「本当はこうありたかった」という回想のようなシーンで、斜に構えていたころの自分を重ねて泣きそうになりました。ラストも「よかったねぇ。今からでもやり直せるよね。”今”が一番若い自分だって言うもんね!」と、自己啓発系OLみたいな思いで楓を見届けました。

(というか、この映画を見て「主人公気持ち悪い!!」と他人事のように思える人がいるとしたら、そいつヤバい奴だと思んですよね。逆に楓 予備軍なのでは。)

 

映画の中で登場する、サークル「モアイ」の描き方も面白かったですね。
ボランティアや、企業とのコラボを行ういわゆる「意識高い系」サークルなのですが、僕もまんまと「こういう団体はろくなもんじゃねぇな」という目で見てしまっていました。なので、楓と同じく肩透かしをくらってしまったのです。自分の持っている偏見や、固定概念を見透かされているようで恥ずかしかった・・・。

 

主演を演じた吉沢亮くん。僕は彼が出ている作品を初めてみましたが面白い俳優さんですね。コメディが向いているのか、受けとツッコミの演技が上手で、普通に何か所か声出して笑いました。1年生のころの芋っぽさと、4年生になって若干あか抜けている感じの演じ分けとか、すごいなぁと。あと、何といっても絶妙に気持ちが悪い全力疾走シーン!!初めて主人公が世界=秋吉に向き合おうと走り出す場面で結構感動的なシーンのはずなのに笑えてしまう。そのあたりから楓に人間味が出てきて愛おしくなりました。

予告編ではほとんど出てこないので観るまで吉沢くんと杉咲花ちゃん以外の出演者は知らなかったのですが、脇役が豪華でした。光石研と森七菜ちゃんのシーン(壮絶ガチンコ演技バトル)は全く別の映画みたいで、正直浮いていました(笑)。久々にブラックの方の光石研の本気を観た感じがして震えました。森七菜ちゃんの存在感もすごい。
柄本佑さんもいつの間にかすっかり二枚目俳優ですね。僕の中の少女が「あ!柄本佑だ」と喜んでいました。画面の中にいるだけでグッと安定する感じがします。

 

というわけで、ふらっと見た割にかなり楽しめて、心動かされる映画でした。

どんな映画?と聞かれると、今まであまりないタイプの物語なので説明が難しい(多分配給側もそうだと思っている)ですが、「青春恋愛映画のB面」と観てない人には説明しようかと思います。

aokuteitakutemoroi-movie.jp

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